「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

 化学工学会第44回秋季大会(平成24年9月19日〜21日於東北大学)において開催された平成24年度バイオ部会学生ポスター発表会で、下記の7名の方々が優秀ポスター賞を受賞されました。
 尚、下記7名の受賞者より、簡単にではございますが、研究の紹介をして頂きました。

受賞者:

九州大学大学院 安部祐子
『pH 応答性多層ナノ粒子によるドラッグデリバリーシステムの構築』

九州大学大学院 今村佳奈
『Solid-in-Oil化技術を用いた経皮ワクチンにおける免疫誘導効率の向上』

千葉大学大学院 岩瀬優輝
『ハイドロゲル流路を利用した血管模倣組織の構築』

九州大学大学院 下村卓矢
『Cre組込型レトロウイルスベクターによるCHO細胞への部位特異的遺伝子導入』

大阪大学大学院 園井理惠
『コンフルエント状態における網膜色素上皮細胞の遊走性による細胞成熟度の解析』

北見工業大学大学院 高村裕哉
『コーンコブ酸加水分解残渣を原料とした同時糖化発酵による高濃度乳酸生産』

東京工業大学大学院 長谷川涼
『原油生産井におけるサワー化のメカニズム』


受賞者の所属
 

安倍 祐子
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
 

pH応答性多層ナノ粒子によるドラッグデリバリーシステムの構築

  近年、タンパク質や核酸の薬としての用途が注目されている。しかしながら、これらの生体高分子は血中安定性や膜透過性に乏しいため、機能を発現する細胞質内部まで効果的に送達するための技術(Drug Delivery System)が求められる。そこで我々は、生体高分子を簡便かつ安定に包括する、独自の薬物キャリアを開発した。本キャリアは両親媒性物質の自己集合特性を活かし、生体高分子を両親媒性物質で二重に被覆したナノサイズの粒子である。 本キャリアは分子量や電荷に依存せず、種々のタンパク質を非選択的に包括することに成功し、高い封入安定性も確認している。今回の報告では、本キャリアによる核酸の細胞質送達能の向上を目指し、キャリア表面への機能性ペプチドの導入を試みた。
まず、エンドソームからの脱出を促進させるため、後期エンドソームのpHに応答した膜融合機能を狙った。機能性ペプチドとしては、pH応答部位のグルタミン酸と疎水性アミノ酸からなるペプチドを設計した。さらに、細胞膜に対する接着性の向上を狙い、キャリアにカチオン性を付与するオリゴアルギニンペプチドも合成した。その結果、二種類のペプチドをキャリア表面に導入することで、本キャリアによる核酸デリバリー能の向上を確認している。

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受賞者の所属
 

今村 佳奈
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Solid-in-Oil化技術を用いた経皮ワクチンにおける免疫誘導効率の向上
  経皮ワクチンは、皮膚からワクチン抗原を吸収させて免疫化を行う方法であり、注射に代わる簡便性・安全性・非侵襲性に優れた手法として注目されている。しかし、皮膚最外層の角層は非常に疎水性が高いため、親水性のワクチン抗原を皮膚内部の免疫細胞へ送達することは、一般に困難である。そこで我々は、より高効率な経皮ワクチンの開発を目指し、独自のエマルション化技術である Solid-in-Oil (S/O)化技術の導入を試みた。S/O化技術とは、親水性薬剤を疎水性界面活性剤で被覆することにより、油中にナノレベルで分散させる技術である。これまでの研究で、抗原をS/O化することにより、抗原の皮膚浸透性が向上し、水溶液・W/Oエマルションと比較して、 高い抗原特異的な免疫応答の誘導に成功している。
今回は、更なる浸透性向上を図るため、角層以降のバリアであるタイトジャンクションの開口作用が報告されているオリゴアルギニン(R6)との併用を検討し、その効果を報告した。結果、R6とS/O化技術を組み合わせることで、相乗効果が得られ、同濃度の抗原水溶液を注射した場合と同程度の抗原特異的な抗体産生を誘導できることが明らかとなった。

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受賞者の所属
 

岩瀬 優輝
千葉大学大学院 工学研究科 共生応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  ハイドロゲル流路を利用した血管模倣組織の構築
  生体外において作製した血管組織は,医学,組織工学,生化学分野等における幅広い応用が期待されている。これまでに血管様組織を構築するための様々な手法が開発されてきたが,実際の血管構造を高度に模倣した組織の作製手法はほとんど報告されていない。本研究では,ハイドロゲル材料を用いて作製した流路構造を利用することで,多層構造,中空構造,分岐構造のすべてを兼ね備えた機能的な血管模倣組織を構築する新たな手法を開発した。まず,Ca2+を含むアガロースゲルによって構成された流路構造に対し,細胞を高濃度に懸濁したアルギン酸ナトリウム水溶液を導入したところ,流路壁において細胞を密に内包した層状のアルギン酸ハイドロゲルが形成された。異なる種類の細胞をそれぞれ懸濁したアルギン酸ナトリウム水溶液を段階的に導入することで,流路形状に依存した, 多層状かつ中空状の組織を形成させることが可能であった。また,酵素を作用させアガロースを除去することで,流路内において形成した組織を回収することも可能であった。以上の結果より,本手法は実際の血管構造を高度に模倣した組織の作製を可能とするため,血管組織工学における新規アプローチとして有用であると考えられる。

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受賞者の所属
 

下村 卓矢
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Cre組込型レトロウイルスベクターによるCHO細胞への部位特異的遺伝子導入
  レトロウイルスベクターは目的遺伝子を効率よく宿主ゲノム上に組込むことができる一方、ゲノムへの目的遺伝子の組込み位置はランダムであるため、目的遺伝子の発現抑制や原癌遺伝子の活性化などを引き起こす問題点がある。 我々はこれまでにレトロウイルスがゲノムへ組込む際に使用するインテグラーゼ(IN)を欠損させたIN欠損型レトロウイルスベクター(IDRV)を作製し、組換え酵素Creを用いることによる配列部位特異的遺伝子導入に成功している。しかし、この際、CreはIDRVとは別に供給する必要があった。そこで本研究では、組換え酵素Creをウイルス粒子内へ組込んだIDRVを作製し、宿主ゲノムへの目的遺伝子の部位特異的遺伝子導入を試みた。IDRV内へのCreタンパク質の組込みは、ウイルスの構造タンパク質および酵素群であるGag-PolとCreを遺伝子工学的にうまく融合させることで可能とした。あらかじめターゲットサイトが挿入されたCHO細胞を目的細胞とし、生産させたCre組込み型IDRVを感染させた。薬剤選抜後に樹立したクローンの蛍光確認およびゲノム PCR を行ったところ、部位特異的に目的遺伝子が導入されていることがわかった。

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受賞者の所属
 

園井 理惠
大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  コンフルエン ト状態における網膜色素上皮細胞の遊走性による細胞成熟度の解析網膜
  色素上皮細胞(Retinal pigment epithelial cell, 以下RPE細胞)は、紡錘形態では脱分化を引き起こすことが知られており、コンフルエント状態にて高密度の多角形細胞を維持させることが重要である。しかし、これまでにコンフルエント状態における品質評価手法は存在しない。本研究では、コンフルエント状態における RPE 細胞の遊走性により細胞成熟度を解析した。RPE細胞の成熟状態を知るために、tight junctionタンパク質であるZO-1を染色した。ZO-1がすべての細胞膜上で発現している細胞をZO-1陽性細胞、それ以外の細胞をZO-1陰性細胞と定義し、染色画像をもとに、全細胞数に対するZO-1陽性細胞の比率を求めた。培養1日目の遊走速度は、V=5μm/hからV=50μm/hまでの範囲に幅広く分布し、その細胞はZO-1陰性であった。培養7日目では、遊走速度は低下し、V=0からV=20μm/hまでの範囲に分布していた。さらに、遊走速度に対するZO-1陽性細胞の分布を調べたところ、遊走速度がV=0からV=15μm/hまでの範囲に分布し、遊走速度が低い細胞群では、ZO-1陽性細胞の比率が高くなることがわかった。以上の結果より、培養中のRPE細胞の遊走速度を測定することで、コンフルエント状態のRPE細胞の成熟度を定量的に評価することが可能であることがわかった。

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受賞者の所属
 

高村 裕哉
北見工業大学大学院 工学研究科 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  コーンコブ酸加水分解残渣を原料とした同時糖化発酵による高濃度乳酸生産
  コーンコブ(スイートコーン穂軸)をモデルバイオマスとするバイオリファイナリー構築の一環として、希硫酸加水分解によりヘミセルロース成分を有効利用した後の残渣(Corn Cob Residues, CCR)を原料とした同時糖化発酵(Simultaneous Saccharification and Fermentation, SSF)による高濃度乳酸生産について検討を行った。その結果、セルロース成分を約60%含有するCCRを炭素源とし、糖化酵素メイセラーゼとホモ乳酸発酵菌Lactococcus lactis NBRC100933を同時に添加しSSFを行ったところ、良好な乳酸生産が可能なことが明らかとなり、CCR 50g/LからL-乳酸濃度25.6g/L、CCR乾燥重量基準で収率59.8% (g/g-CCR)、生産性1.69g/L/hが得られた。次に、L-乳酸の高濃度化を図るため、SSF開始後CCRを逐次添加するFed-batch SSFを試みたところ、CCR 200g/Lから濃度87.8g/Lの高濃度乳酸が得られ、生産性は0.92g/L/h、収率は59.2% (g/g-CCR)となった。この収率はCCR中のセルロース成分のほぼ全量がL-乳酸に変換されたことに相当し、バイオマスを原料とした安価な乳酸生産の可能性が示された。

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受賞者の所属
 

長谷川 涼
東京工業大学大学院 生命理工学研究科 生物プロセス専攻

受賞したポスターの研究内容
  原油生産井におけるサワー化のメカニズム
  原油生産プロセスにおいて、原油の回収効率を上げる 目的で海水を圧入する水攻法が用いられる。 その際、原油中の硫化物イオン濃度が上昇するサワー化が問題となる。海水に含まれる硫酸イオンは、硫酸塩還元菌(SRB)により、油層水中の揮発性脂肪酸(VFA)を電子供与体として、硫化物イオンに還元される。VFAは原油成分の微生物分解により生成すると考えられる。また既往の研究ではSRBによるフマル酸付加を経る炭化水素の分解経路が報告されている。従って、原油成分をSRBが電子供与体として用いることが考えられる。本研究では、原油成分の微生物分解および、それに伴うVFA生成とサワー化の解析を行った。八橋油田(秋田)の油層水由来の菌体を海水50mlで懸濁し、基質として以下に示す5種をそれぞれ加えた。1. Alkane mix-ture(C5~C17)、2. Aromatic hydrocarbon mixture(BTEX)、3. Crude oil、4. 2,4-xylenol、5. Naphthenic acid各種基質を、非微生物分解性有機溶媒の2,2,4,4,6,8,8-heptamethylnonaneで100倍希釈し、5ml培地に重層し、窒素置換をして嫌気状態とし、1MPa、室温で91日間培養を行った。結果、アルカンと、芳香族化合物(BTEX)からVFAが生成した。また、SRBの電子供与体としてトルエン、エチルベンゼンが考えられた。今後、トルエン資化性 SRBの単離等を行い、より詳細なサワー化のメカニズムの検討を行う。

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