「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

  去る平成20年9月24目 (水)東北大学にて開催されました、化学工学会第40回秋季大会において、平成20年度バイオ部会学生ポスター発表会が開催されました。その結果、全件の応募者より下記の8名がバイオ部会優秀ポスター賞として選ばれましたことを、ここにご報告致します。
 尚、下記8名の受賞者より、簡単にではございますが、研究の紹介をして頂きました。

受賞者:

大阪府立大学大学院 阿部祥忠
Enterobacter aerogenesを用いた水素生産と代謝産物』

大阪府立大学大学院 河田拓也
『分子進化工学的手法により有機溶媒耐性が向上したLST-03リパーゼの取得』

九州大学大学院 古中順子
『両親媒性高分子からなるタンパク質ナノキャリアの開発』

九州大学大学院 嶋田如水
『ヒスチジンタグを利用したDNA-タンパク質の結合形成とThrombin検出システムへの応用』

大阪大学大学院 中西隆博
『Heatphos法におけるケイ酸カルシウム水和物を用いたリン回収』

筑波大学大学院 藤田亮治
『単分散エマルションを基材としたベシクルマイクロリアクターの作製とその反応特性』

豊橋技術科学大学大学院 紋谷慎
『鼻中隔彎曲症における鼻腔空間内の薬液ミスト輸送現象のCFD解析』

東京大学大学院 山本晃康
『酵素を用いた細胞表層膜蛋白質のN 末端特異的ラベリング技術の開発』


受賞者の所属
 

阿部祥忠
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 化学工学分野

受賞したポスターの研究内容
  Enterobacter aerogenesを用いた水素生産と代謝物
   水素は燃やしても水しか生成しないため、次世代のクリーンエネルギーとして注目されている。特に、嫌気性微生物を用いた水素発酵では、バイオマスから生成できるグルコースを原料とし水素を生成できる。しかしながら、嫌気性微生物の水素生成速度は速いが、グルコースの代謝で生成される水素イオンが水素の生成にも利用されているために、水素の転換率はあまり高くない。そこで、本研究では、Enterobacter aerogenes NBRC 13534株の水素生産の向上を目指し、種々の培養条件で生成される水素量とグルコースから生成される水素以外の代謝産物の同定と定量を行い、主要な代謝経路を確認した。
 Enterobacter aerogenes NBRC 13534株をpH 制御下で回分培養したところ、中性で生育がよく、酸性では細胞量が少なくても高い水素生成量が得られることが分かった。また、いずれのpH でも、ブタンジオールやエタノールを多く生成していた。これらを生成する過程では多くの水素イオンが消費される為、これらの代謝物を生成する経路を断つことで、水素イオン消費を低減し、水素生産性の向上が可能になると期待できる。

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受賞者の所属
 

河田拓也
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻

受賞したポスターの研究内容
  分子進化工学的手法により有機溶媒耐性が向上したLST-03リパーゼの取得
   リパーゼは難水溶性の脂質を基質とし、有機溶媒存在下ではエステル合成・交換反応を触媒するため、有機溶媒存在下で用いられることが多い。しかし、酵素は一般に有機溶媒存在下で容易に変性し、失活するため、有機溶媒存在下でも失活しない有機溶媒耐性酵素が求められている。有機溶媒耐性微生物Pseudomonas aeruginosa LST-03株が分泌する有機溶媒耐性リパーゼ(LST-03リパーゼ)は疎水性の有機溶媒に対して高い安定性を示すが、親水性の有機溶媒に対する安定性は必ずしも高くない。そこで、本研究ではLST-03リパーゼの親水性の有機溶媒存在下での安定性の向上を目指し、分子進化工学的手法によりジメチルスルホキシド存在下での安定性が向上したLST-03 リパーゼの取得を試みた。
 ジメチルスルホキシドを含むプレートを用いた方法等により、有機溶媒安定性が向上した4種類の変異型酵素を取得した。また、これらの変異型酵素はジメチルスルホキシド以外の疎水性の有機溶媒存在下での安定性も向上していた。さらに、4種類の変異型酵素の変異箇所を調べたところ、酵素分子の表面に位置するいくつかのアミノ酸残基が置換されていた。また、いくつかのアミノ酸残基では側鎖が中性から塩基性に変化していた。

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受賞者の所属
 

古中順子
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  両親媒性高分子からなるタンパク質ナノキャリアの開発
 

 バイオ医薬は、生体内のタンパク質分解酵素に対する高い感受性と分子サイズの大きさゆえに、小腸粘膜における吸収率が極めて低く、製剤としては主に注射剤として開発されているのが現状である。しかし注射剤は苦痛を伴うとともに患者自身では投与が困難であるなど様々な問題を抱えている。
 本研究では、親水性薬物を高効率に封入可能な新規経口剤キャリアとして、両親媒性ブロックポリマーが有機溶媒中で形成する逆ミセル型カプセルを設計した。モデル薬物に糖尿病治療薬であるインスリンを封入し、キャリアサイズ、インスリン封入率、徐放挙動などを評価することで、より優れたキャリア設計のための知見を得ることを目的とした。
 インスリン封入ナノ粒子のDLS測定とSEM観察の結果、平均粒径が100nm以下であることが確認された。また、インスリンの封入率は50〜70%と高封入率が得られた。さらにアミノ酸分析より、粒子内のインスリンを直接的に確認することができた。一方で、in vitroにおける試験では1カ月以上に渡り徐放挙動が見られず、インスリンをナノ粒子内部に長期間保持し続ける特性を有することが明らかとなった。今後は徐放性を有するカプセルの調製を目指して検討を行う。

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受賞者の所属
 

嶋田如水
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  ヒスチジンタグを利用したDNA-タンパク質の結合形成とThrombin検出システムへの応用
   異なる機能を有する生体高分子同士を結合させることにより、自然界には存在しない異種多機能を持つインテリジェント材料の創成が可能となっている。本研究では、生体高分子の中でもDNA とタンパク質に注目し、DNA とタンパク質の簡便な複合化手法を開発した。また、そのDNA‐タンパク質複合体を利用した新たな分析システムの構築を行った。
 DNAとタンパク質の複合化手法として、本研究では金属錯体アフィニティーを利用した。DNA末端に金属イオンと結合するキレート剤(NTA)を結合し、タンパク質末端に遺伝子工学的手法によって金属イオンを認識するヘキサヒスチジンタグを導入した。マイクロプレート上で実験を行った結果、Ni2+の存在によってDNAとタンパク質が複合化し、マイクロプレート上にタンパク質活性を保持した状態でDNA‐タンパク質複合体を固定化できることを実証した。
 この作成したDNA‐タンパク質複合体と、特定分子を認識・結合するDNA(アプタマー)を利用して分析システムを構築した。血液疾病関連タンパク質であるThrombinを分析対象として選択し、その検出を試みた結果、Thrombin濃度変化に伴うタンパク質活性の変化が観察され、Thrombinの高感度検出に成功した。

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受賞者の所属
 

中西隆博
大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Heatphos法におけるケイ酸カルシウム水和物を用いたリン回収
 

 近年、地球規模でのリン資源枯渇が問題になっているが、この問題を解決しうる方法の1つがHeatphos法である。Heatphos法は、活性汚泥を加熱することによりポリリン酸を溶出させた後、リンを回収する技術である。しかし、Heatphos法を実用化するには、リン資源として再利用可能な状態でリンを回収する必要がある。
 本研究では、Heatphos法において、肥料原料として再利用可能な状態でのリン回収方法の開発を目的とし、CSH(ケイ酸カルシウム水和物)を用いたリン回収方法を検討した。
 Heatphos法を用いて加熱処理した活性汚泥の上清にCSHを添加して攪拌し、リンを回収した結果、約80%という高リン回収率が達成可能であった。さらに、CSHの表面を走査型電子顕微鏡を用いて観察し、元素マッピングを行った結果、多孔質のCSH表面にリンが均一に分布し、リンはCSHの表面に吸着されて回収されたと推定された。さらに、リン回収後のCSHのリン含有率は、肥料原料の公定規格を満たしていた。以上の結果から、Heatphos法におけるCSHを用いたリン回収では、使用したCSHをそのまま肥料原料として再利用できる可能性が示唆された。

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受賞者の所属
 

藤田亮治
筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生物資源科学専攻

受賞したポスターの研究内容
  単分散エマルションを基材としたベシクルマイクロリアクターの作製とその反応特性
 

 ジャイアントベシクル(GV)とは、両親媒性分子の二分子膜が微小な内部水相を包含したμmサイズの閉鎖小胞体である。GVはその構造的な特性から、細胞環境類似のマイクロ酵素反応場として、分析やスクリーニング等への応用が期待されている。
 GVをリアクターとして利用するためには、GVへの物質の効率的内包化と、そのサイズ制御が求められる。当研究グループでは新規なGV調製法として、単分散エマルションを基材とし、GV への物質の内包化とサイズ制御を同時に行える脂質被覆氷滴水和法を提案・検討してきた。本研究では、この調製法によりα-キモトリプシン、あるいはカルボキシルエステラーゼを内包したGVを作製しその反応特性を評価した。
 GV作製プロセスを経ても、初期の8割以上のα-キモトリプシン活性が維持され、既存法と比較して大幅に高い内包率で酵素を内包化できた。また、GVの粒径分布は基材エマルションを反映し、サイズを制御できた。
 これらの酵素内包GVの外水相に基質を添加し、基質がGVの脂質膜を透過して内水相で酵素の作用を受けるGV内酵素反応を行った。その結果、外水相中に阻害剤が存在する系でも、GVに内包された酵素は外水相の阻害剤から保護され、GV内で選択的な酵素反応が進行することが分かった。

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受賞者の所属
 

紋谷慎
豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 機械システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  鼻中隔彎曲症における鼻腔空間内の薬液ミスト輸送現象のCFD解析
 

 現在,副鼻腔炎の治療法に,薬液ミストを鼻腔内に導入するネビュライザー治療が実施されている.この治療効果は認められているものの,どの程度の薬液が炎症患部に沈着しているかを定量的に評価した研究報告は少ない.
 そこで本研究では,副鼻腔炎を発症しやすいとされる鼻中隔彎曲症患者を対象に,鼻腔内の薬液ミスト輸送現象を気液2相流CFD解析により明らかにし,ネビュライザー治療法の改善の方策,鼻腔形状と疾患との相関を検討した.
 本研究で対象とした症例は鼻中隔が右鼻腔に大きく彎曲し,右鼻腔の断面が狭小となっている. CTデータから3次元鼻腔幾何形状モデルを構築し,有限体積法を基にした気液2 相流CFD 解析を実施したところ,鼻中隔彎曲症に起因する流路断面の狭小がネビュライザー治療効果の低下を招く事が明らかになった.その一方で薬液ミストの流入角度を適切に操作する事により,鼻腔内物質輸送を制御可能であることを確認した.また,本解析結果のみでは鼻腔形状と鼻疾患(副鼻腔炎)との相関は明確にする事が出来なかった.この点については今後,副鼻腔を含めた解析を行う必要があると考えられる.

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受賞者の所属
 

山本晃康
東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  酵素を用いた細胞表層膜蛋白質のN末端特異的ラベリング技術の開発
 

 細胞表層に存在する膜蛋白質は,シグナル伝達や物質輸送など生命現象において非常に重要な役割を果たしている.これら膜蛋白質の挙動を観察・解析するための新しい研究ツールとして,生きた細胞の表層に存在する標的膜蛋白質に有機系蛍光色素を観察したい望みのタイミングで導入し,標的膜蛋白質を蛍光ラベル化する技術が近年注目されている.これまでに我々は,ペプチド転移酵素であるSortase A (SrtA)を用いて,細胞外に提示された標的膜蛋白質のC末端部位に特異的に蛍光色素をラベリングする技術を開発した.しかし,多くの膜蛋白質ではN末端部位が細胞外に,C末端部位が細胞内に位置し,C末端部位が細胞外に提示される膜蛋白質はごく少数であるため,このラベリング技術は汎用性が低いという大きな欠点がある.そこで本研究では,新たなラベリング戦略を採用することでSrtAを用いたラベリング技術を拡張し,細胞外に提示された標的膜蛋白質のN末端部位に特異的に蛍光色素をラベリングする技術を確立することに成功した.今後は,本技術を用いたG蛋白質共役受容体のリアルタイムイメージングなど,細胞機能の解析ツールとしての応用を目指していきたい.

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