「化学工学会での優秀ポスター賞受賞者」

実施月日: 平成15年9月12日
実施会場: 化学工学会第36回秋季大会バイオ部会
学生ポスター発表シンポジウム会場(東北大学川内北キャンパス)
参加者: バイオ部会正会員:35名、学生(有料):10名、ポスター発表学生(招待):21名
受賞者: 修士部門(3件)
筑波大・岡本英高(ベシクル内酵素反応を利用した脂質二分子膜の物質透過係数の評価)
筑波大・村澤裕介(過渡的V型コラーゲン上の培養における腎糸球体細胞の動的変化)
名古屋大・日比野恵里(機能性磁性微粒子を用いた間葉系幹細胞の新規培養法)
博士部門(2件)
早稲田大・荏原充宏(温度による細胞ー基材間のナノ構造制御)
東北大・Hermansyah Heri(油-水二相系におけるリパーゼ酵素を用いたトリオレインの加水分解速度論)
参加者: バイオ部会正会員:35名、学生(有料):10名、ポスター発表学生(招待):21名

受賞者の所属とメールアドレス
  岡本 英高
筑波大学大学院 生命環境科学研究科 生物機能科学専攻
s0335471@ipe.tsukuba.ac.jp
受賞したポスターの研究内容
  ベシクル内酵素反応を利用した脂質二分子膜の物質透過係数の評価
  ベシクルは、脂質二分子膜により形成されるナノからマイクロオーダーの閉鎖小胞である。物質が脂質膜を透過する現象は、生命活動と深く関わっており、脂質膜透過性の評価は生命現象を理解する際の基礎的な知見として重要である。また、ベシクルをドラッグデリバリーやナノリアクターへと利用する場合、透過性の評価と制御が必要となる。本研究では、ベシクル内の酵素トリプシンによる反応を利用して、その基質であるbenzoil-tyrosin-p-nitroanilideの脂質二分子膜の透過係数を測定した。得られた透過係数の変動係数は9%未満であり、この方法により高い精度で透過係数を測定できることがわかった。次に、透過係数に対する脂質膜中のコレステロール含量の影響と温度の影響を定量的に評価した。その結果、いずれの温度においてもコレステロール含量が10mol%のときに透過係数は最大となった。また、温度の上昇に伴って透過係数は増加した。これら透過係数の変化を検討するため、脂質二分子膜内で局在位置の異なる2種類の蛍光プローブを用いて脂質二分子膜全体の流動性を評価した。その結果、透過係数は膜流動性と良好な正の相関を示し、脂質二分子膜の流動性が透過係数の支配的な因子であることが示唆された。
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受賞者の所属とメールアドレス
  村澤 裕介
筑波大学 バイオシステム研究科 修士2年
ore_mura@hotmail.com
受賞、嬉しかったです。有難うございました。
科学は逃げていきます。科学をつかんだ自信、その裏で捕まえられていない不安感が拭えないのです。職人と違い、いい仕事をすれば良いわけでなく、スポーツと違い、人に勝つことが大事なわけでなく、他人に誉められれば良い訳でもない。でも嬉しかったです。
今後は、更に自分を密にして、キュっと自分の科学を追い求めていきたいと考えています。
受賞したポスターの研究内容
  過渡的V型コラーゲン上の培養における腎糸球体細胞の動的変化
  Tissue-engineeringにおいて、細胞と細胞の足場である細胞外マトリクス(ECM)と液性因子の三者の関係をうまく操って、細胞から複雑な組織へと組織再生させることが求められる。ここで、現在の問題点は、我々が操作できるECM は、初期条件という単一条件なのに対し、実際の細胞は組織再構成時に、時間軸に沿って、多様な質の条件のECMを要求するということである。故に、今、単一初期条件ECM を足場にするだけで、後は細胞自身がECMをその時、その時の自分好みにリモデリングしてくれる、そういう初期条件ECM の登場が要求される。本研究では、X型コラーゲンが腎臓細胞に足場の不安定性を与え、腎糸球体発生、再生時、細胞に可塑性やダイナミズムを与え、細胞膜リモデリング、ECMリモデリングを誘起し、細胞に新たな分化の方向性を与え、その後は一過性で消えてしまい、次の安定期ECMにバトンタッチするという、最適な初期条件ECMタンパクであることを解明した。
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受賞者の所属とメールアドレス
  日比野 恵里
名古屋大学大学院 工学研究科 生物機能工学専攻 生物プロセス工学講座 M1
h031416m@mbox.nagoya-u.ac.jp
受賞したポスターの研究内容
  間葉系幹細胞の新規培養法
  間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell MSC)は主に骨髄中に存在し、骨や軟骨細胞への多分化能を持つため、再生医療に有用な細胞である。しかし、MSCは骨髄中全細胞の0.0005%から0.01%しか存在せず、骨髄1ml中には1000個程度しか含まれていない。そこで少数のMSCを効率よく増殖させるために、細胞の高密度化播種・培養による、培養細胞のオートクライン作用を利用した細胞増殖の促進が望まれる。我々は、細胞に対する毒性が少なく、細胞に取り込まれやすい機能性磁性微粒子(magnetite cationic liposomes MCLs)を用いて、細胞を磁石で集めて高密度に播種・培養するという新規培養法の検討を行った。
MCLsをMSCに取り込ませた結果、増殖抑制や、骨芽細胞、脂肪細胞への分化抑制もしないことが分かった。MCLsを使わない対照と比較して、磁石で細胞を集めることで培養数日後に約4.7倍の細胞数を得ることができ、本方法によって細胞増殖を促進できた。本培養法は、少数の細胞を効率よく増殖させることができるため、Tissue Engineeringに有用である。
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受賞者の所属とメールアドレス
  荏原 充宏
早稲田大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻 酒井・小堀研究室
ebara@suou.waseda.jp
発表者:
荏原充宏(早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻)
大和雅之(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)
青柳隆夫(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)
菊池明彦(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)
酒井清孝(早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻)
岡野光夫(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)
受賞したポスターの研究内容
  温度による細胞ー基材間のナノ構造制御
  「火傷を負った皮膚や損傷した角膜に、あたかも湿布を貼ったりコンタクトレンズつけたりするように、皮膚、角膜、心臓、肝臓、腎臓といった臓器に細胞のシートを貼り付けられないか?」ヒトでは、一部の組織以外では、再生能は非常に限られており、大部分を欠損した疾患では再生は期待できない。そこで我々は、生体組織が細胞シートを積層した構造であることに注目し、細胞シートを用いて組織構造を再構築する「細胞シート工学」の開発に取り組んでいる。本研究では、これを実現させるマテリアルとして、@細胞接着因子とA温度応答性高分子を固定した新規培養皿の開発に取り組んだ。実際にこの培養皿を用いることによって、@近年問題視されている動物由来成分(ウシ血清など)を使用せずに細胞を培養でき、A温度をスイッチとして細胞を一枚のシート状に回収可能であった。興味深かったことは、細胞と培養皿との間のナノレベルの構造(細胞膜タンパク質と細胞接着因子の結合)を、温度で制御できたことだ。こうした技術の確立は、組織工学・再生医療への応用のみならず、基礎細胞生物学的研究にも大いに活躍が期待できる。
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受賞者の所属とメールアドレス
  Heri Hermansyah  (ヘリ ハーマンシャ)
東北大学 大学院工学研究科 化学工学専攻
heri@rpel.che.tohoku.ac.jp
受賞したポスターの研究内容
  油-水二相系におけるリパーゼ酵素を用いた
トリオレインの加水分解速度論
  リパーゼを用いた天然オイルの加水分解により、高級脂肪酸やグリセリン、生理活性能を有するジアシルグリセロールなどを生産する手法が注目されている。しかし、基質は親油性であるのに対し、酵素であるリパーゼは水溶性であるため、油相中ではほとんど活性を示さず、反応は油-水界面で進行することとなり、反応機構や速度論は複雑である。本研究では、天然オイルの主成分であるトリグリセリドの加水分解実験を界面積既知の油-水二相系で行い、反応速度に及ぼす各種操作因子の影響を検討すると共に、トリ体から出発して、ジ、モノ体を経てグリセリンが逐次生成する不可逆的な擬一次反応機構に基づく速度論モデルを構築した。本モデルで得られた速度定数の値は、ジ体生成の場合が最も小さく、モノ、グリセリン生成と大きくなった。リパーゼの活性部位は親水性であることが知られており、親水性が高い基質ほど活性部位に近づきやすく、反応性が高いと考えられ、この傾向が定量的に表現された。
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