「化学工学会での優秀ポスター賞受賞者」

 去る平成17年9月15日に開催された化学工学会第37回秋季大会において、平成17年度バイオ部会学生ポスター発表会が行われました。全件の応募者より下記の10名がバイオ部会優秀ポスター賞として選ばれました。

受賞者:

早稲田大・軽部博泰 『光刺激応答性ガスキャリア液を用いた新規酸素濃縮器の開発』
名古屋大・伊野浩介 『磁性ナノ粒子を用いた血管を含む三次元組織の構築』
東京大・高岸克行 『骨芽細胞様細胞を用いた骨様組織の調製』
静岡大・酒井孝幸 『生分解性プラスチックを混合したコンポスト化における微生物叢遷移』
大分大・亀元亮宏 『植物性廃棄物からの乳酸発酵』
神戸大・濱真司 『糸状菌 whole-cell biocatalyst における細胞内リパーゼのモニタリング』
東京大・杉浦俊彦 『抗体アンカーリング腫瘍細胞を用いた樹状細胞の活性化とその抗腫瘍活性』
大阪大・大西真亮 『微小流路を用いた薬物代謝評価システムの構築』
早稲田大・古川和寛 『環境微生物の高感度 in situ 検出における問題点』
大阪府大・山田誠之 『計算化学的手法によるジスルフィド結合を導入したサーモライシンの構造予測』


受賞者の所属
 

軽部 博泰
早稲田大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  光応答性を有する新規酸素濃縮器の開発
  酸素療法とは,呼吸器系疾患の患者に高濃度酸素を吸入させる治療法である.この治療法では酸素供給源として,空気中から酸素を濃縮する膜型や吸着型の酸素濃縮器が用いられている.しかし,これらの方法は酸素を高濃度かつ高流量で供給することができない.そこで本研究では,二つの膜モジュール間に酸素を化学的に結合・解離可能な酸素キャリア液を循環させることで,効率のよい酸素移動を実現する装置を考案した.酸素運搬体として,遮光時に酸素と結合し,光照射によって酸素を解離する金属錯体であるoxo-molybdeum (IV) 5, 10, 15, 20-tetra-mesitylporphiryn (MoIVO (tmp))を用いた.まず,MoIVO (tmp)をシリコーンオイルに溶解させた酸素キャリア液を作製し,光照射による酸素分圧変化から,酸素濃縮率を調べた.その結果,最大で大気の約2倍まで酸素を濃縮できることがわかった.また,空気から酸素キャリア液への酸素吸収時および酸素キャリア液からの酸素放散時の酸素移動速度を測定した結果,酸素キャリア液を用いない場合より有意に酸素移動速度が増加した.以上より,この新しい酸素濃縮器を用いると,呼吸不全患者が安静状態で必要とする500 mL/minの酸素を約230 mmHg以上の酸素分圧で供給できることがわかった.

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受賞者の所属
 

伊野 浩介
名古屋大学大学院 工学研究科 化学・生物機能工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  磁性ナノ粒子を用いた血管を含む三次元組織の構築
 

現在、再生医療では作製した組織内への酸素と栄養の供給が問題になっている。心筋や肝臓などの細胞では、作製した組織の厚さが数百μmに達すると内部の細胞は栄養が足りずに死んでしまう。したがって、酸素と栄養を供給するために作製した組織内に新生血管を作る必要がある。
我々は、磁性ナノ粒子と磁力を用いた組織工学(Mag‐TE)による新規三次元組織構築法を提案している。Mag-TEでは、我々が開発した磁性ナノ粒子であるmagnetite cationic liposome (MCL)を用いる事で、多層の細胞シートを作製でき、酵素処理を行わずに磁力により回収する事ができる。本研究では、正常ヒト新生児包皮皮膚繊維芽細胞の細胞シートを作製した。酵素処理を行わずに回収しているため、この組織内にはコラーゲンtype?などの血管新生に適した様々な細胞外マトリクスの成分が含まれていた。そこで、正常ヒトさい帯静脈血管内皮細胞と共培養したところ、血管新生により組織内に毛細血管を形成させる事に成功した。このように、Mag-TEは毛細血管を含む三次元組織の構築に有用な手法であると考えられる。

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受賞者の所属
 

高岸 克行
東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  骨芽細胞様細胞を用いた骨様組織の調製
 

骨欠損の治療法として、組織工学的手法を用いて再構築した骨様組織を移植する方法が近年注目されている。しかし、既往の研究では再構築体の十分な力学的強度の達成されていなかった。本研究ではその解決策として、生体骨に類似した無機成分・有機成分の緻密な複合体を調製することが有効であると考え、骨芽細胞による無機成分の産生 (石灰化) を促進するCa2+強化培養液と、力学的強度に優れた有機ポリマーである平面絹を骨芽細胞様細胞の培養に利用して、力学的強度に優れた骨様組織の調製を目指した。
滅菌した平面絹上に、ヒト骨肉腫細胞株MG63を懸濁したゼラチン溶液を注ぎ、酵素的に架橋することで細胞を包括固定した。Ca2+濃度を通常の培養液の4倍の濃度に高めた培養液(Ca2+強化培養液)を添加して4週間培養したところ、顕著な石灰化が確認された。生化学的、組織学的に調べたところ生体骨に良く似た骨様組織であることを確認した。一方、平面絹の包埋は、押し強度、引っ張り強度の顕著な向上に寄与し、さらに石灰化による相乗的な強度向上の効果を示したことから、本手法が力学的強度に優れた骨様組織の調製に有効であることが示唆された。

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受賞者の所属
 

酒井 孝幸
静岡大学大学院 理工学研究科 物質工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  生分解性プラスチックを混合したコンポスト化における微生物叢遷移
  生分解性プラスチックであるpoly-e-caprolactone(以下、PCL)はコンポスト中で極めて分解性の高いことが知られている。本研究ではPCLを混合した原料のコンポスト化における微生物叢遷移を明らかにし、PCLの分解に関わる微生物についての知見を得ることを目的とした。そのため、コンポスト化過程におけるPCL分解率の変化を定量するとともにPCR-DGGE法を用いて微生物叢を解析し、PCL分解時に特徴的に出現する微生物を見出した。また、PCLを混合して作ったコンポスト製品を種菌として返送したコンポスト化において、PCL分解開始と、PCL分解に関わる微生物の出現が早まることを確かめた。さらに、PCL培地(PCL分解菌濃度測定に用いる培地)上で活性が高く、数的にも優勢なPDS-1株の存在を、DGGE解析で確かめた。

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受賞者の所属
  亀元 亮宏
大分大学大学院 工学研究科 応用化学専攻
受賞したポスターの研究内容
  植物性廃棄物からの乳酸発酵
 

本研究では、年間600万トン以上廃棄される建築廃材に着目し、これら木材バイオマスを再資源化することを目的としており、酸加水分解処理で得た糖化液からの乳酸発酵を試みた。現在、環境型プラスチックの一種である「ポリ乳酸」の利用拡大が提唱されているが高価であるために普及が十分でない。ポリ乳酸の低価格化には、原料用乳酸の低価格化が必要である。そこで、本研究では二つの工夫を行った。一つは再資源化可能なバイオマスを利用することで環境問題への対応が可能になるため、基質として木材バイオマスを用いたことである。二つに乳酸生成菌を一般乳酸菌ではなく、糸状菌Rhizopus oryzae を用いたことである。本糸状菌は高価な栄養源を必要とせず、生産した乳酸の光学活性がほぼ100%といった理由から、乳酸菌と比べて乳酸を安価に生産できる。しかしながら、本糸状菌は発酵特性が明らかになっていないため、種々の物質により阻害影響を受けやすい。今回、木材糖化液に含まれる鉄イオン、フルフラール、HMFが発酵に阻害を及ぼしたが、炭酸カルシウムによる前処理によって阻害物質を除去することができた。また、処理後の糖化液 に活性炭を添加し、発酵を行うことで生産性の向上が見られた。

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受賞者の所属
 

濱 真司
神戸大学大学院 自然科学研究科 分子集合科学専攻

受賞したポスターの研究内容
  糸状菌whole-cell biocatalystにおける細胞内リパーゼのモニタリング
 

リパーゼを生産する微生物を多孔質担体に固定化した触媒を、whole-cell biocatalystと呼ぶ。本研究では、糸状菌Rhizopus oryzaeがバイオディーゼル生産反応であるメタノリシスに対して高い活性を有することから、この菌体内リパーゼの局在解析を行った。R. oryzaeは分子量の異なる2種のリパーゼを生産し(ROL34, ROL31)、前者は細胞壁に、後者は細胞膜に局在した。またROL34は成熟領域であるROL31にpro領域のC末端28アミノ酸残基が結合したものであり、前駆体からのプロセシングが酵素の活性・局在性を支配することが強く示唆された。さらに、菌体の多孔質担体への固定化や油脂など基質関連物質の培地への添加は、リパーゼを菌体に保持させる効果のあることが定量的に示された。各画分のリパーゼ量と酵素活性との相関性より、膜局在型リパーゼ(ROL31)がR. oryzaeのメタノリシス活性に極めて重要な役割を果たすことが明らかとなった。これらの結果により、微生物酵素の分泌メカニズムの解明および比活性の高いwhole-cell biocatalystの開発への貢献が期待される。

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受賞者の所属
 

杉浦 俊彦
東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  抗体アンカーリング腫瘍細胞を用いた樹状細胞の活性化とその抗腫瘍活性
 

腫瘍免疫療法の一つである樹状細胞(DC)療法は、患者由来のDCに腫瘍特異的抗原を貪食させ、抗原提示DCを調製して患者の体内に戻し、腫瘍特異的傷害性T細胞を効率良く活性化することで腫瘍を特異的に傷害する治療法である。この方法では、腫瘍特異的抗原を提示した活性化DCを効率良く調製することが重要である。 抗体が結合した腫瘍細胞に対するDCの貪食能は、抗体のFc部位がDC細胞膜上のFcレセプターに結合することで促進され、DCはその腫瘍細胞由来の抗原を効率良く提示する。ただし、従来の方法では、腫瘍特異的抗体が必要となる。本研究では、様々な分子を速やかに細胞膜にアンカーリング出来る試薬(BAM)を用いて、腫瘍細胞表面に任意の抗体を結合させ、腫瘍細胞に対するDCの貪食能促進を試みた。その結果、DCとBAMを用いて抗体を結合させた腫瘍細胞と共培養した場合、未処理腫瘍細胞との場合に比べ、腫瘍細胞を取り込み活性化したDCが約4倍増加した。得られた活性化DCをあらかじめ投与したマウスに腫瘍細胞を皮下移植したところ、腫瘍生着が拒絶され延命傾向が得られた。本研究の利点は、任意の抗体を腫瘍細胞に結合できるため、特異抗体を必要としないこと、またDCに貪食させる腫瘍特異的抗原として腫瘍細胞全体を貪食させるため、未同定抗原の抗原提示が期待されることである。

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受賞者の所属
 

大西 真亮
大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  微小流路を用いた薬物代謝評価システムの構築
 

薬物は体内に吸収された後、代謝を受けて体外へ排出されるまでの過程で薬効を示す。しかし、意図した代謝が起こらないと薬効を示さないばかりか、人体に有害な作用をもたらす可能性もあり、薬物の代謝特性を詳細に知ることは極めて重要である。細胞を用いて代謝特性を調べる場合、従来、マルチウェルプレートを用いた静置反応で行われてきたが、実際の生体内での薬物代謝反応は血管内にて連続的に起こっている。つまり、正確に生体内反応をシミュレートするには連続反応を用いる必要があると考えられる。そこで、本研究では総量100μLのマイクロリアクターを用い、初代肝もしくは遺伝子組換え肝由来細胞株を接着させ、連続反応で薬物代謝測定を行うシステムの構築を行い、従来法との比較を行うことを目的とした。さらに、本システムに用いる細胞として、測定を簡便化するために肝細胞株HepG2を宿主とした遺伝子組換え細胞株を構築した。この細胞株はP450 3A4プロモーターの誘導が起こると、P450 3A4とd2EGFPをバイシストロニックに発現する。この細胞を利用すれば、酵素誘導状況を蛍光観察で検出可能となり、薬物代謝試験も同時に行える。最終的には、構築した細胞と測定環境と組み合わせ、新規薬物代謝評価系を提案したいと考えている

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受賞者の所属
 

古川 和寛
早稲田大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  環境微生物の高感度in situ検出における問題点
 

環境中やバイオリアクター内に存在する有用細菌が、「どこで・どのくらい」存在しているのかを正確に把握するには、細菌を機能遺伝子に基づいて検出する必要がある。細胞内機能遺伝子の検出手法として、高感度FISH(Fluorescence in situ hybridization)法が開発されているが、これらの手法はいずれも巨大分子を用いた手法であることから、細菌の細胞壁を適度に消化する必要がある。ところが、細胞壁構造は細菌種によって異なることから、検出条件(細胞壁処理条件)に差異が生ずる。本研究では、高感度FISHを複合系に適用する場合の問題点を解明することを目的とし、8種の純菌株を用いた詳細な解析を行なった。その結果、10mg/mlのLysozyme溶液で細胞壁処理を行なうことにより、比較的広範囲の細菌を検出できることを明らかにした。また、Lysozymeのみでは検出できない細菌群は、Achromopeptidase処理を行なうことにより検出できることを明らかにした。しかしながら、単一の処理条件ですべての細菌を一括して検出することが困難であったため、細胞壁構造に左右されない新たな検出系が必要であることが示唆された。

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受賞者の所属
 

山田 誠之
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻

受賞したポスターの研究内容
  計算化学的手法によるジスルフィド結合を導入したサーモライシンの構造予測
 

有機溶媒耐性微生物Pseudomonas aeruginosa PST-01株が産生するPST-01プロテアーゼは有機溶媒存在下で非常に安定である。一方、サーモライシンは耐熱性に優れており、有機溶媒存在下でペプチド合成甘味料アスパルテームの前駆体を合成することが可能である。PST-01プロテアーゼとサーモライシンの構造は非常によく似ているが、PST-01プロテアーゼは分子内に2つのジスルフィド結合を有しており、N末端ドメインに存在するジスルフィド結合はPST-01プロテアーゼの有機溶媒安定性の一要因であることが実験的に示されている。そのため、サーモライシンのN末端領域の同様の位置にジスルフィド結合を導入できれば、サーモライシンに有機溶媒耐性が付与できると期待できる。本研究では計算化学的手法を用い、ポテンシャルエネルギー、結合導入による変異型酵素の野生型酵素からの構造の変化を指標に、サーモライシンにジスルフィド結合を導入する最適な箇所の探索を行った。

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